最初は、例によってクラスの細かい男子からだったでしょうよ。
彼らとジャンケンをしようと思うと、「最初はグー」と言わないと始まらなくなってさ。
ああ面倒くさいと思いながらも、最初はグーから始めるようになって、まさか。
まさか、それが定着するとはね。
ジャンケンを変えた男、カトチャンけんちゃん。
恐るべし。
思うに、洗濯板から洗濯機が定番になったことよりも、断然すごいと思うんですよ。
だって、洗濯板から洗濯機になるのは、ものすごく便利だし当然の流れだけれども。
ジャンケンが「最初はグー」から始まるようになったって、便利でもなんでもないんだから。
やること増えただけなんだから。
それでも定着したわけですよ。
言っちゃうと、だ。
それが本当におもしろいかどうかも定かではないのに、定着しているのです、未だもって。
ほかの人がやってたら、一時的に流行することはあっても、さすがに、あれがデフォルトになることはなかったと思うのよねえ。
そこが、あの時代の志村けんってやつなのです、おそらく。
まあ、私らより上の世代は、やらないのかもしれないけどね。
つーか、うちの親なんて絶対やんないよなあ。
となると、私ら世代辺りが頑なに「最初はグー」でジャンケンをやり続けたってことなのかなあ。
あのコーナーが終わっても、ずっとやり続けてたと。
なんか、すみませんね、下の世代の方たち。
付き合っていただいちゃって。
でもさ。
でも、「最初はグー」からジャンケンが始まるようになって、
少しジャンケンが変わったと思うんですよ。
ジャンケンが変わったというか、ジャンケンへの向き合い方が変わったというか。
基本的にジャンケンというものは、何かを競い合う時、優劣を付けなければならない時、勝ち負けを決定付けなければならない時にやるもので。
つまりは、「決闘」なわけです。
決闘な以上、「今からジャンケンで物事を決める」ということを、お互いに承諾し合い、「契約」を成立させなければならないのです。
「最初はグー」がなかった頃は、どうしてたんでしょうね。
「じゃあ、ジャンケンで決めようやー。」
「ええよー?あーん?」
みたいな会話を、ひとくされやらなければならなかったんでしょう、なんかそんな記憶がありますよ、
えぇえぇ。
だがしかし、「最初はグー」ができてからは。
どちらかが「さ~いしょ~は……」と手を振りながら、相手と目を合わせさえすれば、
そこで契約成立です。
そう、「最初はグー」の誕生によって、その辺の話がすこぶる早くなったのです。
なかなか有り難い話だったのですよ、これ。
小学生だって忙しいのです、アリジゴク探したりとかで。
「最初はグー」による時間短縮のおかげか、ジャンケンをする機会も増えたような気がします。
また、「最初はグー」のワンクッションによって、ジャンケンにおける駆け引きも変わっていきました。
ジャンケンをするにあたって、どの部分で相手の思考を読むのか。
どの時点で本気を出すのか、はたまた、相手を油断させるのか。
単純にネタが増えた分、考えなければならないことも増えました。
なんせ「最初はグー」の時点で、パーを出すという反則技も、あるにはある。
あるにはあるのです、だって志村さんがやってたもの。
志村さんがやってたんだから、それは有りなのです。
そんなこんなで、最初はグーからこっち、ジャンケンに対する真剣味も増してましたよね、確実に。
だからこそ定着したんだろうと、私は思います。
ほんとかよ。