姉の正体
姉から、久方振りにメールが届いた。
そういえば、しばらく前にもメールが来ていた気がするが、返事を忘れていたような。 ま、いいか。
彼女は今、ジュネーブで暮らしている。
働いていた頃の貯金を切り崩しつつ、そして生命保険も解約しつつ、学生生活を送っている。
さすがに、それだけでは生活できないので、向こうで日本語を教えたりしているらしい。
まあとにかく、四十路(よそぢ ちに点々)を目の前にして、相当クリティカルな生活のようだ。
メールの内容をよく見ると、服をリメイクしてるだの、ヨーグルトの増やし方を開発しただの、手作り感満載の生活がうかがえる。
……すばらしい。
彼女と私は、お世辞にも仲のいい姉妹とは言えない関係であった。
歳は5歳も離れているので、可愛がってくれてもいいようなものだが、にっこり笑って頭を撫でてもらった類の記憶は一切ない。
物心ついたときには、激しい戦闘が繰り広げられていた。
ま、原因は、私の方にあるのだが…。
私という子供は、人の心の琴線を、引っ張ってほしくない方に引っ張ってねじる、という性格だったので、姉としては非常に生活しにくかったようだ。
一度、あまりに激高した姉が、私に向かって椅子を投げようとしたことがある。
すんでの所で思いとどまったのか、投げつけられた記憶はない。
が、私はすかさず、「お姉ちゃんの友達に、お姉ちゃんが椅子を投げてきたって言っちゃるけぇぇ!(言ってやる)」と改めて宣戦布告した。
そして、すっかりその事を忘れていたところ、2、3日して、姉が
「…ほんとに友達に、こないだのこと言うん?(言うのか)」
と、少し暗めの表情で聞いてきたので、さすがに気の毒になって「いや言わない」と言うと、ホッとしていた。
そんなケンカが、私が小学2年の時に、ありましたっけ。
ちなみに、ケンカの原因は覚えていない。
私がちょっかいを出して、姉が怒る。
これが我々の兄弟げんかだった。
とにかく、姉は真面目で、私はちゃらんぽらん、そういうことになっていたのだ。
そういうことになっていたし、私もそうだと思っていたので、まさかその真面目な姉が。
まさか、天然だったとは。
夢にも思わなかった。
長くなったので続く。