人は見た目じゃわからんの。
茨城方面から電車で帰る道すがら、いつの間にか彼は現れた。
その出で立ちは、あり得ない。
ピンクを基調としたアロハシャツに、迷彩柄のズボンに雪駄、そして髪の毛はリーゼント。
夢うつつに彼の姿を見た私は、思わずつぶやきそうになった。
君は、花畑か。
我々の右隣に座った、お花畑君。
しばらく網棚に置き去りにされた漫画雑誌を読みふけっていたが、どうやら連れがいたらしく。
その後輩らしき連れと、二人で話し始めた。
どうもその後輩君は、種子島出身らしい。
「ロケットの発射とか、結構飽きるほど見たことあるんっすよ。」
「へぇぇぇ、すげぇなあ。」
意外にも興味を持つ、お花畑君。
わりと素直なようだ。
わりと素直なようだ。
「あと、うちのうらでも、たまにロケット発射するんっすよ。そこ、海がすっげぇ綺麗で…。」
「え!?」
「いや、うちのうらでもね、発射するんっすよ。種子島だけじゃないんっすよ。」
「え、○○(後輩君)ん家って、種子島じゃないの?」
「え? いやいや、種子島っすよ。」
「え、うちのうらで発射すんの?」
「そうなんっすよ、うちのうらで。」
明らかに会話が噛み合っていない。
だが、3割だけ起きている脳で何となく聞いていた私としても、それは無理もないことのような気がした。
「うちの裏でって、すごくね?」
「ん……? あぁ、いやいや。内之浦っていう所があるんっすよ。」
「あぁ、びっくりしたぁ! 俺、お前ん家の裏でロケット発射するのかと思って。」
「そんなことしたら、うち吹っ飛びますよ!」
いや、それどころじゃないだろう。
イントネーションの違いというのは、恐ろしい。
種子島人と茨城人に限らず、遠く隔てた地域でツーカーな会話をするのは難しいことなのだ、きっと。
それにしても、だ。
お花畑君。
話を聞いていると、その有り得ない格好から想像するようなタイプではないらしい。
変に語尾を伸ばすでもなく、普通にしゃべってるじゃないか。
しかも。
しかもね。
足を怪我してる女の子が、こっちに向かって歩いて来た時。
彼はなんと、席を空けたのだよ!
めっさ良い奴じゃん、キミ!
……ねぇ、なんで、そんなカッコしてんの?
無意識のうちに、見た目で相手の人格まで決めつけていた自分を恥ずかしく思いつつも…。
やはり、そう思わずにはいられないのだがね?