そーしてタロウは?
何だか高校時代のことを思い出した。
私は弓道部だったのだが、部の同級生(女子のみ)総勢12人、当然よれば姦しいことこの上なく…。
その姦し娘12人が、ふとしたことから「ウルトラマンタロウ」の主題歌のことで、ケンカになった。
誰か1人が、こう歌う。
「ウぅルぅトぉラの父がいるぅ、ウぅルぅトぉラの母がいるぅ、そ~してタロウが『そこ』にいるぅ♪」
それは違う、と別の誰かが、こう歌う。
「ウぅルぅトぉラの父がいるぅ、ウぅルぅトぉラの母がいるぅ、そ~してタロウが『ここ』にいるぅ♪」
『そこ』なのか『ここ』なのか、さあ、どっちだ。
(以下 山口弁)
「『そこ』にいたってしかたないじゃん、『ここ』にいて戦ってもらうんじゃけー『ここ』いぃね。」
「『ここ』でドンパチされたら、それこそたまらん、『そこ』くらいが丁度ええじゃろうがね。」
「あとで、空を見ろ、星を見ろ、って言うじゃん。空も星も『ここ』って感じじゃないじゃん。」
「いいや、『そこ』だ。」
「うんにゃ、『ここ』だ。」
いや、喧々囂々、埒があかない。
そこで、第三者の意見を聞くこととなった。
その第三者に選ばれたのは。
当時ちょっとカッコいいんじゃないかと噂され、聞けば先日の模試で学年1位を取ったという頭脳派、人望も厚い次期主将に決定済みのM先輩。
「先輩、ちょっといいですか。」 と、12人で押しかけた。
気前よく話を聞いてくれるM先輩。「なに?」
「ウルトラマンタロウの歌を歌ってみてください。」
気前よく歌ってくれるM先輩。「いいよ。」
「♪タァ~ロウは戦うぅ~♪」
「………。あ、いや、そこからじゃなくて。最初っからお願いします。♪う~る~と~らの…。」
「ああ、そう。 じゃあ。」
改めて。
「ウぅルぅトぉラの父がいるぅ~♪」
はい、父。
「ウぅルぅトぉラの母がいるぅ~♪」
はい、母。
「そ~してタロウは…♪」
はい、タロウは…?
「♪『どこ』にいぃるぅ~??」
……訊いてどうする。
当時ちょっとカッコいいんじゃないかと噂され、聞けば先日の模試で学年1位を取ったという頭脳派、人望も厚い次期主将に決定済みのM先輩。
天然 であることが判明。
「えっ、違うの? どこが?」
「……。『どこ』が、違うの。」
意味もわからず一人慌てるM先輩を尻目に、姦し娘のテンションは急速に冷め、我々は早々に家路についた。
その後M先輩が、「かっこいい先輩」 から 「いじられキャラ」 へと転落していったのは、言うまでもない。
お元気ですか、M先輩。
風の噂では、現在医者になったとか、ならなかったとか。
うーん、外科は、やめて。