うぅ…谷子。
もうどれくらい、こんなことを続けているのだろう。
最初のうちは、会社へ休むと電話を入れていたが、最近では、それもしていない。
そんなことを考える余裕は、とうの昔になくなっていた。
最後にした食事は、いつだっただろう。
横になって寝た覚えも、ほとんどない。
こんなことを、しなくてすむ日が、いつか来るのだろうか。
ぺ●るの引っ越し先は、まだわかっていない。
いつも途中で見失ってしまう。
ここ何日かでわかったことといえば、あの眉毛がダンディハ○スで整えられていた、ということくらいだ。
今日こそは。
谷子は、花も散りかけた桜の木に、いつも通り身を隠し、ぺ●るを待った。
ぺ●るが出てきたのは、10時を過ぎてからだった。
珍しく一人だ。
毎日、こんなに遅くまで仕事をしているのに、疲れた様子もなく、どこか楽しげに歩いている。
何か良いことでもあるのだろうか。
ぺ●るはコンビニへ入り、何かを買い始めた。
きっと夕食だろう。
しばらくして、ラーメンらしき物と500mlの缶ビールが入った袋をぶら下げて出てきた。
「最近太ったって気にしてたけど、ビールのせいだったんだ…。」
尾行をしながら、その相手の身体の心配をしている。
そんな自分の滑稽さを、谷子は、ため息混じりに笑うしかなかった。
ぺ●るは、そのまま一つの建物に入っていった。
いたって普通のペンシルビル。
用があるのは2階らしい。
谷子は、2階の看板を急いで確認した。
【メイド漫喫 ここらが関の山】
「…漫喫? …メイドって…?」
混乱する谷子に追い打ちをかけるように、上から声がした。
「 お帰りなさいませ、ご主人様~~♪ 」
谷子は、思わず壁に手をつき、がっくりと肩を落とした。
ぼんやりとした視界に、この言葉だけが目にうつる。
「ここらが関の山」
今、思えば。
あそこで全てを、やめておけばよかったのかもしれない。
しかし、その時の谷子には、それはできなかった。
止まることが、できなかったのだ。
谷子は、ぺ●るがその漫喫から出てくるのを待った。
気がついたときには、もう朝になっていた。