もたれる
不幸という名の食べ物があります。
本物は、とんでもなく苦くて辛くて、それでも無理矢理食べなきゃならない、そんな食べ物。
むやみやたらと口にするものではないだけに、いつしか憧れに近い感情を持つ人間も現れ。
一部の人間によって、偽物も作られるようにまでなりました。
偽物は……好きな人にはタマラナイ、まったりとした得も言われぬ味に仕上がっているのだとか。
一度はまってしまったら、なかなか止められないそうです。
あっちの不幸(偽)を食べては満足し、無くなってしまうと次の不幸(偽)を探して彷徨います。
ああ、そうだ。
この不幸(偽)はね、2種類あるのですよ。
「自分の不幸(偽)」と、「他人の不幸(偽)」。
「自分の不幸(偽)」は、桃色なんだって。
「他人の不幸(偽)」は、紫色らしいよ。
それでね、「自分の不幸(偽)」の方が、少し手に入れやすいみたい。
「自分の不幸(偽)」には、もれなく「他人の同情」が付いてきますよ。
「他人の不幸(偽)」には、「達成感」みたいなものが、一応付いてくるらしいけど…。
でもねぇ、どっちのおまけも、やっぱり偽物なの。
だって、もともとが偽物だからね。
不幸が手に入らなくなったら、その人達はどうなっちゃうかって?
大丈夫なんだよ。
その道の達人はね、自分で作れるの。
自分の不幸も他人の不幸も、息をするように自分で作れちゃうんだよ。
まあ偽物だから、慣れてしまえば簡単なのかもねぇ。
私?
あぁ、昔、一口だけかじったことがあるよ。
「自分」の方ね。
でも、はまることはなかったなぁ。
だってねぇ、これを食べてる自分の姿を鏡で見たら、まぁ~みっともなくってネ。
二度と食べないって心に誓いましたよ、えぇえぇ。
とにかく、偽物の不幸が大好きな人には気をつけなさい。
彼らは、周りに何かしらの不幸がないとやっていけない人達だから。
だから偽物の不幸を作ってるんだよ。
永遠にね。
そう、関わらないのが、一番。