「……遅い。」
「遅いよな…。」
「いつもなら28日には咲くはずなのに、全然咲いてねぇじゃねぇか。」
「そうだよ、いつもなら28日には必ず咲くはずなのに。」
なのに。
「もう、29日なのに、咲いて、ない、じゃねぇ、ヵッ…!」
「な、なんでだ……なんでだょ…。」
「冗談じゃねぇ、こんなおかしな話があるか。」
「何かあったのか、去年。」
「いやぁ、何もなかったさ、あるわけがねぇさ。」
「そんなこと俺に聞いたって、わかるわけねえだろうがよ!」
「んだと、このやろう!」
「なんだよ、俺に切れるなよ!」
「とにかく考えるんだよ、なんで咲かねえのかをよ!」
「そ、そうだな…」
「そうだそうだ…」
「……」
「……」
「……」
「…俺…一回だけ……一回だけ、会社サボったわ…。」
「エェ!?」
「いや、一回だけなんだよ、一回だけ。一回だけなんだから、そんな…それで咲かないなんて、そんな…」
「一回とかそういう問題じゃないんだよ!」
「……それを言うなら、俺だって…。」
「なんだよ?」
「俺も……俺も、一回だけ…一回だけ、池の鴨にエサを……」
「バカッ!エサやっちゃいけねぇって立て札に書いてあるのにかよ!」
「だって、なんか可愛かったんだもん。」
「鴨が可愛くて花が咲かないんじゃ、世話ないわなぁっ、あぁ!?」
「すっ、すまん…っ で、でも、それで咲かないのか…?」
「……んなこと俺に分かるわけないだろうがよっ。」
「…そういうお前は、どうなんだ。」
「…どうって?」
「なんか、心当たりないのかよ。」
「…。」
「…あるんだろ。」
「…あるんだな?」
「…。」
「なんだよ、言ってみろよ。」
「……年末に、一回だけ…一回だけ、ココで立ちション……
「お前のせいだろうがよ、全部!!!」
「なんてことしてくれてんだ、コイツ!!」
「一回とかそういう問題じゃないんだよ!」
「とんでもねえヤツだな!」
(えぇ本当によくないですね、タチションなんて)
「どうしてくれんだよ、このまま咲かなかったりしたら!」
「そ……そんな……そんなぁ……俺は……俺は…そんなつもりじゃ……ぁ」
「あぁ……」
「父ちゃん。」
「あそこ、咲いてるよ。」
「あん?」
小さなわっぱの小さな手が指す、その先に。
「あ。」
今年もまた、この国の春が始まった。
それはそれは、つつがなく。
嵐山に行ってみましたが、3分咲きといったところでした。
桜の名所ということになっている嵐山ですが、これこの通り。
嵐山の桜というのは、昔、貴族たちが植林していたそうです。
自分たちが楽しむために。
なので、むか~しむかしは、山全体が桜色だったとかナントカ聞いたことがあります。
で、現在。
なんだかな、ですやね。
このままいくと将来、日本人がいなくなってしまうってのは、いつでしたっけ。
日本人が消えたって、富士山が消えることはないだろうけど。
「花見人口が減ってきているらしい。由々しき自体だ。」
って仰ってたのを思い出します。